読み始めたら止まらない! 大河解説ロマン ガラスの改稿 ふたりの王女編
〜ガラスのように もろくこわれやすいシナリオ 人は素顔を隠して それをえがく〜
美内すずえ氏著、白泉社発行のガラスの仮面は、演劇に生命を燃やすふたりの少女とそれ
を取り巻く人々の人生を懸けた生き様を描いて大人気でありながら、1976年の花とゆめ誌で
の連載スタートから30年の年月を経てなお未完の物語。
92年以降は中断と再開を繰り返しながら徐々にストーリーが進んでいたが、97年、98年の
TVドラマでの一応の完結を契機として雑誌での連載は未完のまま終了してしまった。
数年置きに刊行される単行本は連載時のエピソードを大幅に改稿したもので、特に近年の
ものはほとんど描き下しでの刊行になり、連載時原稿は大量にボツになっているという奇妙
な変遷を辿りながらも発行部数5000万部という恐るべき魅力を持つ大作です。
主人公北島マヤが数々の試練を乗り越えながら演劇の師月影千草が上演権を持つ演劇界
幻の名作「紅天女」を演じる事の出来る女優になることを目指して美しきライバル姫川亜弓
と芸を競い、様々な役を演じる中で女優として成長してゆく物語。
「ふたりの王女」はこの物語中で最も長く展開された劇中劇ですが、花とゆめ誌での連載は
1982年24号で初日の幕が上がり、フィナーレが1983年17号ですから、なんと9ヶ月もの長期
に渡って1本の舞台劇を描いていたのです。(休載が2回あるので掲載は16回)
また、この時期は単行本化にあたって連載時の原稿の大幅な改稿が始まった時期でもあり
コミックスとはやや趣の違う魅力的なストーリーがあるにも拘らず、あまり触れられていない
事を残念に 思いますので比較研究してみることにしました。
まずは「ふたりの王女」の開演以降のエピソードの中で印象に残る改稿部分を書いてみよう
と思います。
改稿で良くなった部分としては25巻の182P以降から26巻冒頭に当たるオリゲルド登場の
シーンに加筆し挿入された、オリゲルドが観客席へ降りて“冬将軍”の娘として舞台上の
“春の女神”の娘アルディスと交互に劇場の空気を支配するところでしょう。
連載時の原稿はコミックス25巻181Pのオリゲルド登場シーンからそのまま26巻14Pへと
繋がるので加筆によって物語の厚みが増し、25巻で加筆改稿された冷凍庫内での稽古の
エピソードが生きることになりました。
ただし、つなぎ目のセリフの流れの関係で2ページ分の連載時原稿はカットされ加筆部分
と差し替えています。
牢内でのばあやとの会話場面では、オリゲルドの表情が美しすぎる部分は描き替えて怖く
なっています。(黒目→白目青筋+頬コケ+クマ)
26巻22ページまでのアップのオリゲルドの多くは描き替えでセリフや場面の流れも細かく
修正が施されています。
他にもマヤがオリゲルドの演技を見ながら「亜弓さん・・・!」と呟くコマが客席の様子に
差し替えてあったり、序盤の王と王妃の会話場面のセリフが少し書き換えになっていた
りと細かな修正も各所にあります。
庭のバラを枯らした庭師の部分は加筆挿入ですがアルディスのやさしいエピソードに厚み
を加え、それを見ていたユリジェスの反感が後々の不穏な情勢の効果的な伏線になって
おり、最後の脱出行へと続くドラマの一つの軸になっているように思います。
一方その前後はややカットして話をつなぎますが、連載時原稿では“花冠の王様の唄”と
ダンスは2番の前半まで描かれます。
26巻83P「敵国の花嫁・・・」の部分は連載原稿が場内遠景やシルエット処理だった場面を、
ふたりの表情がわかるように描き換えています。
26巻101Pから数ページは連載時の4号と6号のつなぎ目にあたるのでコマ割を再構成して
一部描き替えています。(5号は休み)
26巻134P・135Pは6号と7号のつなぎ目に加筆挿入されたものですが素晴らしく効果的な
盛り上がりになったと思います。
26巻165Pは加筆、一方7号ラスト1ページと8号の冒頭1ページはカット。
(いわゆる“引き”と“アオリ”の部分です)
26巻178Pの紫のバラの花束を抱えるマヤのコマは連載時の第二幕開始前の館内情景の
描写から描き替え、179Pの花束マヤと記者たちに対する小野寺の劇評および180ページ
の第二幕開始前の館内の様子シーンは加筆。
26巻186Pは83年8号連載時の原稿の途中にコマを挿入する形で亜弓のモノローグや真澄
の(マヤ・・・!)が追加挿入されています。(ここは後で詳述します)
27巻58ページは 25巻で減量した亜弓さん の設定に基づき加筆挿入された場面です。
以上がコミックスとしての前後の巻との繋がりを自然にし連載時の各話の“引き”になる
部分を加筆再編集してまとまりを持たせ、盛り上がりを加えている効果的な改稿です。
一方、私の見るところ残念な改稿部分も多いので、以下に具体的に述べたいと思います。
(いまならまだ引き返せますよ・・・(^_^;)・・・いまなら・・・)
ハーランドでのアルディス姫の活躍とその後の政治的な動きがコミックス化の際にかなり
大幅にカットされています。
コミックスでは26巻の最後と27巻冒頭に当たるシーンですが、この場面に亜弓の心情の
モノローグシーンが入って26巻のラストがより盛り上がるのは上述の通りですが、一方で
居並ぶハーランド貴族と衛兵、正装したアルディス、見とれる観客、囁き合う貴婦人達、
スタッフの驚きの声、舞台袖から見詰める亜弓の姿、などの連続した場面がつくる情緒
や緊張感は失われアルディスの活躍が断片化されてしまいました。
また、コミックス27巻冒頭ではその後シークエンスであった間者の情勢報告を受ける場面
を最初のページに挿入し、更にアルディスとハーランド王の会話場面のページがばっさり
削られセリフは小さなコマに圧縮して収録されました。
連載時にはユリジェスのナレーションに続いてハ−ランド王の 「ようこそこられた!」
「ラストニア国の アルディス姫どの!」の言葉が始まり、舞台の中央手前にアルディスが
贈り物を捧げ持つ従者ふたりを従えて立ち、右手奥にハ−ランド王、その左右と城内各所
に甲冑に身を固めた衛兵が並び、左手奥に貴族と貴婦人が並ぶといった遠望場面があり、
次のコマで槍を並べる衛兵のバストショットが描かれて、物々しい雰囲気を醸し出し、次の
ページで正装したアルディスの優雅な挨拶の言葉とそれを見てざわめく客席の描写、囁き
を交わす貴婦人達、更に次のページで裏方スタッフのマヤの演技に対する感嘆の声、その
様子を袖口から見ている亜弓と描かれアルディスの和平への願い、停戦への決意と覚悟
が語られるに及んで、王の態度が軟化し、融和のムードが流れるといった具合に進みます。
この場面のコマ割を変更しユリジェスのナレーションの後に亜弓のモノローグ4コマを挟み、
最下段に王の言葉のコマが移動、次ページはまた亜弓のモノローグを続け、上記舞台遠景
シ-ンの中にもフラッシュで囲んだ亜弓のモノローグ (最後の幕が降りるとき観客はどちらを
見ているか!わたしが知りたいのはその瞬間!)を挿入、更に次ページでアルディスの挨拶
の後、観客のざわつくコマの両端を塗りつぶして(あなたか)(わたしか)をフラッシュで挿入、
次のページは新規に描いたものですが、そこに今度は貴婦人の囁きのコマを連載時原稿
から切り抜いて挿入して、真澄の(マヤ・・・!)、亜弓の(マヤ・・・!あなたには負けたくない
・・・・・・!)そして最終ページで(つぎはわたしの出番・・・・・・!)という具合に亜弓の心情が
多く挿入されたために相対的にアルディスの印象が薄くなりました。
連載時の流れはどうだったのかを以下に述べます。
ハーランド王宮大広間 玉座の前に立つハーランド王 その周囲に槍を揃えて居並ぶ衛兵
貴族と貴婦人がみつめる中 拝謁する正装したアルディス ざわつく客席
「ハーランド建国記念祭にお招きいただきありがとうございます国王陛下」
「ラストニア国一同を代表いたしまして心からお祝い申し上げます」
「つきましてはラストニア国よりハーランド国に祝いの品々を持参しております」
「受け取っていただければ幸いに存じます」
アルディスの優雅な振る舞いにざわめく客席
貴婦人:「なんてお美しいのでしょう 噂にきいた通りですわ」
「それにあのお可愛らしさ 天使のような微笑をなさる」
貴族: 「ラストニア国王がいたく溺愛されているというがなるほど・・・!」
上演スタッフ:「すごいわねマヤちゃん 観客の注目を一身に集めているわ」
「ああ それにしてもこんなにきれいだとはな・・・」(同じコマに亜弓の姿もあり)
「アルディスどの!」 「よく敵国ハーランドへくることを決心されたな
さぞかし国王陛下が反対されたであろう」
「はい」
にっこり微笑み答えるアルディス その表情にハッとする列席の貴族
「たいへんでございました ハーランドとはまだ停戦ができたわけではない」
「なのに出かけるとはそなたは命が惜しくないのかといわれました」
「命は無事でも捕らえられて人質にされてしまうかもしれないとも・・・」
ははは・・・笑い声を上げながら
「ではなぜここへ参られた?」
「神の御心に従ったまでです」 「神の御心?」
「はい 神は汝の敵を愛せよとおっしゃられました」
言葉に気を引かれる貴族達
強い眼差しのアルディス
「わたくしは戦はいやです 人と人とが憎しみあって刃を交しあって血を流しあう・・・」
「どうして愛しあって生きてはいけないものでしょう」
「ハーランドはすばらしい国です」
「わたしはハーランドの人々を愛し仲良くなりたいと思っています」
「一日も早くハーランドとの戦がおわり平和なつきあいができる事を願っているのです」
「それでハーランドへこられたというわけか」
真剣な眼差しの王
「ではここで姫を捕らえたとしたらどうする?」
ふと王を見るアルディス 息を呑む客席
目を閉じて
「かまいません」
「人質になれば戦は中止されるでしょうから」
驚く観客 ざわめく貴族達
「父はわたくしをとても愛しております」 「もしわたくしが人質になろうもの
ならこの身を案じてハーランドに決して手を出すことはないでしょう」
切なくもいとおしげな表情の従者ユリジェスのつぶやき
「姫・・・」
玉座の前に佇み考え込む王 「・・・・・・・・」
玉座を離れ階下へ降りて手を差し出す
「アルディス姫 一曲このハーランドの国王と踊ってはくださらぬか」
驚くアルディス
「そなたは命をかけてこの国へこられたのですな」
「陛下・・・」
手が重なる
王の眼差しにやさしさが現れ・・・
「わしも神の御心に従いたくなった ラストニアとは仲良くなれそうな気がする」
「しばらく滞在していかれよ」
・・・曲が流れ始める・・・〜♪ 〜♪ 〜♪
「わしの王子に王女はまだ幼いが 后とは仲良くなれよう」
「ありがとう存じます陛下」
観客席に安堵の空気が流れる。 ( ´。`) ´。`) ´。`)_.з ε- (´。`(´。`(´。` )
「アルディス姫 いままであなたを誤解していました」
「あなたはすばらしい王女だ」
アルディスの足元に膝をつきそのドレスに口づけを捧げつつ
「お許しをアルディス姫 」
「ユリジェス・・・」
観客のため息がもれる・・・ ( ^o^) ^-^) ^o^)-з
麗と堀田の会話「ちょっと・・・!」 「なんだい麗」
「気がつかないかい? 観客の反応だよ」 「観客の反応?」
うっとりする観客席の様子・・・
「そうだよあの表情・・・!」
「観客の心がアルディスに同化しかかっている・・・!」
「ええっ !?アルディスに !?」
うっとりと見詰める観客の姿
離れていくユリジェスを見るアルディスの表情
舞台袖の亜弓の感慨・・・
(あなたは素晴らしい人だわ マヤ・・・!)
(光り輝く王女アルディス!)
(観客の心は今あなたに傾いている・・・!)
(でも舞台はまだ終わってはいないわ!)
(つぎは私の出番・・・・・・!) 1ページ独占
と流れるような展開でした。 (ビジュアルは想像してください)(^^)
ハーランドでのエピソードは全9ページでそのうち6ページ分カットしていますがその中から
コミックス27巻に連載時の絵が6コマ採用されています。
27巻5ページ最下段のコマは連載時のあらすじコーナーで、この絵は再構成に当たっての
加筆、6ページの3、4コマ目も加筆です。
26巻の最終ページの絵は上の(つぎは私の出番・・・・・・!)のコマですが、オリゲルドが
黒目から白目に変更になっています。
26巻のこの場面のオリゲルドは全て加筆です。
このように連載時の原稿では観客や登場人物の反応や表情などがアルディスの戦時外交
の場での悲壮な覚悟とその振る舞いの見事さを強調し、王と貴族がその邪心のない天使の
微笑みに心を溶かしていく様子が、連続したコマ運びの流れの中で丹念に描かれているの
ですが、コミックスではオリゲルドの絵とモノローグ、更に次のシークエンスである間者による
報告のシーンまでをもコマの間に挟み込み意図的にアルディスの印象を弱くしています。
アルディスの覚悟に打たれた王の態度や場内の描写があってこそ読者に場の空気と登場
人物の心情の変化を読ませる物だと思います。
セリフはコミックスにあるものと大差ないのですが絵がかなり減って一コマに多くのセリフを
詰め込んだ形になり、インパクトがかなり弱くなっています。
そもそも、戦争中の相手国に乗り込んで和平合意の空気を作るには如何に天使の微笑を持
つ姫が来たとしてもハーランド議会を動かす貴族たちの了承が無ければ無理だと思いますの
で背景描写を落とした事によってこの場面の説得力が大きく損なわれました。
また、このシーンはエリンワルド王宮でオリゲルドの見せた、ウーロフ王にお互いの利害が
一致する旨を匂わせつつその知性を認めさせ、それによって自由な陰謀を駆使できる環境
と部下を手にしたシーンと好対比を成すものなので、マヤ対亜弓の演技対決という観点から
みても明らかに亜弓有利となる展開に修正したわけです。
これに続き、27巻最初の情勢報告シーン4コマの後、オリゲルドがエリンワルド王に願い出
て了解を得、グリエル大臣を使者としてラストニアに援軍を申し出る場面、この提案を受けて
停戦調印寸前の状態から再び戦争継続に傾くラストニア議会の模様、それに決然と反対する
アルディス、困った貴族の差し金で侍女たちによるアルディス軟禁、そしてハーランド侵攻と
占領、王家の処刑、それを知ったアルディスの深い絶望へと繋がる一連の場面も数ページ
カットされ、かなりの圧縮再構成がなされています。
(引き返すなら今ですよ・・・(^_^;)・・・今ならまだ・・・)
花とゆめ9号冒頭の4コマはコミックス27巻5Pと同じなので省略します。
(連載時のこのページ最下段は これまでのあらすじ紹介コーナーです)
「・・・・アルディス姫の力によるところが大きいかと思われます」
間者から報告を受けるオリゲルド
白目で 「アルディス・・・!」
「愛で国が治められると思っているの・・・!」
「必要なのは力よ・・・!」
「人々は平和より富を欲しているのよ!」
「権力を欲しているのよ・・・!」
ふと玉座に向かう王に目をやります 観客も一緒に・・・
「アルディス!今 その証をみせてあげる・・・!」
「陛下!ごきげんうるわしゅう存じます!」 「おお オリゲルド」
「陛下・・・!実は陛下にきいていただきたいことが・・・!」
「わたくしの願い事でございます」
「ほう・・・!そなたからあらたまって願い事とは!」
「してその願い事わしは義父としてきけばよいのかな?」
「それともエリンワルド国王陛下としてきけばいいのかな?」
「国王の力をもったお義父様としてこの義娘の願いをきいていただきとうございます」
ははははは・・・
「わかった」
「あちらでそなたの話をきいてみることにしよう」
ラストニア王:「なに!? エリンワルドが我がラストニアに援軍を送ると!!」
グリエル:「御意」
「我がエリンワルド国アシオ王子さまの妃殿下として ラストニア国第一王女で
あらせられますオリゲルドさまは 祖国ラストニアとハーランドとのこの度の戦」
「祖国の苦戦を憂慮され ラストニア国に対し援軍を送りたいと申し出られております」
「オリゲルドさまの熱意に心を動かされた国王陛下も貴国ラストニアにお味方したいと
申されております」
王:「信じられん・・・」
貴族達:「あのオリゲルドさまが我が国に援軍を・・・!」
「敵国エリンワルドの父王に頼まれて・・・!」
「それほどまでにラストニアのことを・・・!」
「なんというお方だ・・・!」
「強力なエリンワルド軍の力を借りられればハーランドに勝てるぞ!」
「だがどうする?ハーランドとは停戦 和平調印の日取りまで
決めたばかりというのに・・・・・・!」
「この際和平が何だというのだ!負け戦に ていのいい名前をつけただけではないか!」
「もう一度戦を!」
「エリンワルドの力を借りてハーランドをやっつけるのだ!」
アルディス:
「いけません!」
「ハーランドと再び戦だなんていけません!」
「ハーランドの国王陛下はこれからはラストニアと仲良くしていきたいとおっしゃったのよ!」
「お互い血を流すことはもうやめましょう!」
「約束を破ってはいけないわ」
議会:「みんな思い出すのだハーランドとの戦の目的を!」
「正当な銅山の権利をめぐってのことだったではないか!」
「あの銅山をラストニアの手に!」
「そしてハーランドを我が国の領土に!」
アルディス:
「ハーランドの国の人々は皆 親切ですばらしい方達ばかりです!」
「争うよりは手を結び共に協力しあえばお互いの国を大きくしていくことができるでしょう!」
議会:「みんな!このままでは停戦という名の負け戦だ!」
「ハーランドと和平を結んだところでなんの益があるというのか!」
「ハーランドを倒すのだ!」 おーー
アルディス:「ハーランドの血を流さないで!」
議会:「我がラストニアに大きな富を!」 おーーー
侍女A:「ご無礼を!アルディス姫」
四方から囲まれるアルディス:
「なにをするの おやめなさい!」
侍女B:「戦がおわるまでのごしんぼうです お部屋にとじこもっていただきます」
侍女C:「姫によけいなご心配をおかけしないためです
お部屋でおとなしくなさっていてくださいませ!」
侍女D:「見張りはつけておきます」
玉座の王と貴族
「陛下 これが姫さまのためなのです」
「うーむ」
「戦の用意を!」
スポットライトの中のグリエル
「クックックッ・・・」
「わーはははははは」
シルエットの軍勢と軍靴・馬蹄の響き・・・
ハーランド王と伝令
「なに !?ラストニアが攻めいってきただと !?」
「エリンワルドの援軍をひきつれて!? ばかな・・・!」
「和平だなどといっておきながらラストニアめ だましたな!」
「ひきょうものめ!」
ユリジェス:
「エリンワルドの力を得て戦いはラストニアの圧勝で終わった」
「敵国ハーランドの国王とその一味は捕らえられその場で処刑された」
「ラストニアは銅山をはじめハーランドのすべての領土を我がものとした」
「長かった戦の終了 そして大きな勝利にラストニアの国中が沸きたち
その感激に酔いしれた」
「国王陛下ばんざーーい!」 「ラストニア国ばんざーーい!」
「エリンワルド国ばんざーい!」 「オリゲルドさまばんざーい!」
ユリジェス:
「国中の者がこんどの戦に勝利をもたらしたのがオリゲルドだということを知っていた」
ラストニア王:
「グリエルどの この度のエリンワルドのご厚情」
「ラストニアはどう答えていいかわからぬほどだ」
「長年争っていた北の領地は貴国へお返ししよう」
「他に望みはなんなりと」
グリエル:
「そのお言葉オリゲルドさまがきけばお喜びになりましょう」
「北の領地をいただきあとはお心だけを頂戴いたしましょう」
「オリゲルドさまも我がエリンワルド国王陛下も縁戚
ラストニア国のお役に立ててことを嬉しく思われることでしょう」
ゴッドフリードと従者:
「どうなさいました?ゴッドフリードさま うかない顔をして」
「いや・・・」
「なぜだかはわからんのだがな]
「さっきから胸の中に灰色の雲が広がっていきおるのだ・・・」
「いったいなんなのだこの妙な不安感は・・・」
「なぜ・・・ !?」
「なぜ こんな事になってしまったの?」
「せっかくハーランドの国王陛下や王妃さま王子や王女さまたちと親しくなれたのに・・・」
「あの方達の暖かくむかえてくれた笑顔がまだわたしの目の中にあるというのに・・・」
「愛を 信頼をうらぎってハーランドを滅ぼしてしまうなんて・・・」
「やさしいあの方達を処刑・・・!」
「ああ・・・!どんな気持ちで死んでいかれたか・・・!」
「ばあや・・・!」 「わたしも死にたい・・・!」
(まだ読んでます?・・・知りませんよ・・・(^-^;)・・・)
ハーランド王家の最後を嘆くアルディスに対し冷たい表情のオリゲルドから二通目の手紙
「親愛なる義妹アルディス・・・!」
「こんどの戦のことであなたがたいへんお嘆きだと聞き心配しております」
「あなたがハーランドとの和平のために活躍されていたとは少しも存じませんでした」
「あなたの努力を無にしてしまい わたくしがどんなに申し訳なく思っているか・・・」
「わたくしはエリンワルド国でなつかしいラストニアの苦戦をきいて
あなたや父王さまがどれほどお苦しみか」
「心配でいてもたってもいられないほどだったのです」
「ラストニアの戦に少しでもお役に立てればと エリンワルドの国王陛下に援軍を
おねがいしたのです」
「一日も早くラストニアに平和がもどりますように」
「そしてあなたや父王さまの笑顔が 勝利の旗のもとにありますようにと
それだけを念じていたのです」
「けれどおやさしいアルディス あなたの心を傷つけてしまったことがわたくしを苦しめます」
「ああ・・・!どうか許してくださいね」
「誰かの笑顔の後ろには誰かの涙があるのです」
「あなたの許しをこいながら・・・ただ一人の義妹アルディスへ・・・」
「愛をこめて オリゲルドより」
「オリゲルドお義姉さま・・・なんて おやさしいの・・・」
「わたしやお父さまやラストニアのことをここまで思っていてくださったなんて・・・」
「敵国の国王陛下にラストニアへの援軍をたのむのは苦労なことでしょうに・・・」
「アルディスこそお義姉さまの好意を無にするようなことをいって・・・」
ビエナ:
「さ!アルディスさま 涙をふいて!」
「オリゲルドさまもおっしゃっていらっしゃるでしょう」
「誰かの笑顔の後ろには誰かの涙があるのだ・・・と」
「そうしたものなのですよ 戦というのは・・・」
「オリゲルドお義姉さま・・・」
自分を気遣ってくれるやさしいお義姉さまへの思慕とハーランドに対する申し訳なさが
交錯して呆然と立ち尽くし、泣きはらした表情をみせるアルディス
息を呑む麗達、真澄、小野寺、桜小路(マヤちゃん・・・)
観客席からざわめきが起こります
「なんて切ない表情かしら・・・」
客席のカップル:
「すなおで人を疑うことをしらないアルディス・・・」
「このアルディスをだましているのかと思うとなんだかオリゲルドが
憎らしくなってくるわね」 「ん・・・」
亜弓:(マヤ・・・)
「オーホホホホホホホホ」
白目のオリゲルド:
「ラストニアは勝った・・・!」
「わたしが送った援軍のおかげで・・・!」
「長かった戦いは終わり銅山もハーランドの領土もラストニアのものになった・・・!」
「王家も貴族も国民たちもみんなわたしに感謝している!」
「勝利をもたらした女神だと!」
白目で横顔のアップ:
「アルディス・・・! あの子はきれいなだけのただのお人形」
「国にとって必要なのは富と利をもたらす人物・・・!」
「グリエル大臣!」
「つぎの手を・・・!」
「ははっ!」
ここまでで15ページ分です、ハーランドの場と同じく8コマは27巻に採用されています。
コミックスでは新規に7コマを加筆、でも大量にカットされたのは残念だと思いません?
ヨハン王子暗殺後、王の病状が悪化していく中オリゲルド暗殺計画が立案される。
一方オリゲルド派になびく貴族も現れ宮廷は不穏な情勢。
(ヨハン王子の謀殺シーンは連載時もあっさりしていましたが、ゴッドフリードの
陰謀場面 と貴族達の様子は結構圧縮しています)
以下はカットされた3コマで、連載時はコミックス27巻13Pの次にあった描写です。
ヨハン王子の弔いの鐘が鳴る中、貴族達の中にオリゲルド帰国の待望論が出て
徐々に広がります
「オリゲルドさまだ」 「オリゲルドさまが女王に・・・!」
次第に集まる貴族達 「オリゲルドさま」
麗の口ポカンアップと貴族達が次第に渦になっていく描写
王の病室でゴッドフリード伯と医師の話
「陛下のご容態はどうです?」
「まるで体中の血が流れを止めてしまわれたようでございます」
「青ざめた顔色が紫色に・・・!」
「ヨハン王子さまが亡くなられてからめっきり弱くなられ 生きるお力を
失くされたようでございます・・・」
「して どうなのだ!陛下のお命はあとどれほどだというのだ !?」
「しっ!ゴッドフリードさま!」
「陛下のお命は芯のきれたろうそくのようなものでございます あとわずか・・・」
「ここ5・6日のうちかと」
ゴッドフリード伯も焦り始め
「よし!城の警護を固めろ!」
「特に陛下の寝室の周りは厳重にし なにびとたりとも通してはならんぞ!」
「陛下御重病につき誰もお部屋へ入れてはいかん!」
「よいかハンス もし国王陛下がこのまま亡くなられても時期が来るまでふせておくのだ」
「すべて陛下が生きていたときと同じように食事を運び薬をおもちするのだ」
「父上・・・!」
「なんとしてもアルディスに王位を継がせるのだ」
「オリゲルドは暗殺する・・・!」 計3ページ分のカット
この後はコミックスで14Pの場面になります。
盟約を結んだ貴族達と、早くオリゲルドをおびき寄せようと謀ります。
(14P一コマ目はセリフを替えていますが 伯と医師の話のコマが転用されました)
アルディスはその無邪気さゆえに秘密を抱えた者達から距離を置かれます。
「どうなさったのです?アルディス姫」 「ユリジェス・・・」
「わたしは不安なのです 弟のヨハンが亡くなり
そして今はお父さまが明日をも知れぬ命・・・」
「そのお父さまのために 明日血族の者がラストニアに集められることになりました」
「ユリジェス もしお父さまがお亡くなりになったらこの国は
オリゲルドお義姉さまが継ぐのだと臣下達が話していました」
「姫さま・・・!」
「いいえそれはいいのです お義姉さまは今は第一王位継承権をおもちですもの」
「それにお義姉さまはおやさしい方 なにも不安はありません」
「ただ・・・」
「なぜでしょう まわりの者達が妙によそよそしくなったような気がします・・・・・・」
「まるでわたしをさけているような・・・」
「なんだか悲しい・・・」
「アルディス姫・・・」
「何があってもわたくしだけは姫についております・・・」
「あなたは わたくしの唯一の姫です・・・」
「ユリジェス・・・」 2ページ弱カット
カットされたページは少ないものの連載時の原稿からは宮廷における両派の勢力争いの
雰囲気が良く解りますね。
微笑みの力で一滴の血も流すことなく民衆蜂起を沈静化させ、議会に縛られず国民救済
のために特別緊急対策措置を実施し、自国から仕掛けた戦争の相手国に乗り込みわずか
1ヶ月で和平合意を取り付けるという離れ業をみせた王女はもはや政治的英雄であり、
議会や貴族からすればその発言力は無視できない存在になっていたことでしょう、
軟禁や隔離という非常手段によって情報を遮断せねばならない程に・・・
(とうとうここまできてしまいましたね・・・(^o^;)・・・眠れなくなりますよ・・・)
いよいよ機は熟しオリゲルド帰国の時が来ました。グリエルもさぞ根回しに励んだこと
でしょう、知りすぎて後に殺されるほどに・・・
貴族達があちこちで集まって
「父王さまのお見舞いにエリンワルドへ嫁がれたオリゲルドさまがいらっしゃるとか」
「まあ どのような方なのでしょう」
「もし国王がお亡くなりになれば オリゲルドさまが王位を継がれたことになる・・・!」
「今からうまくとりいっておけば・・・」
「オリゲルドお義姉さま・・・かつてただ一度だけお会いしたお義姉さま・・・!」
「ラストニアのために敵国へ嫁がれていったお義姉さま」
「どんなにお変わりかしら?」
ヤング貴族達:「アルディスさま お美しい!」
「こんなときでさえ・・・」
「エリンワルド国 オリゲルドさまのおなりーーー!」
階段上にオリゲルド 見上げるアルディス 美しいオリゲルドのアップ
観客席と貴族達からざわめきがあがる
「おお なんと気品のある方なのだ・・・!」
「あの堂々とした妃殿下ぶりはどうだ」
「あの方こそまさに王家を継がれるのにふさわしい風格をお持ちではないか・・・!」
オリゲルドはまず貴族達に歩み寄り
「ラストニア国第一王女オリゲルド」
「ただいま戻りました」
無視された格好のアルディス
「オリゲルドお義姉さま・・・」
マヤ:(亜弓さん・・・!) 4ページカット
ここは9号と10号の境目で、連載時の原稿からは多少のカットとコマ割の再構成に伴う
加筆、セリフの集約などがあります。
以下はコミックス18ページの次に当たるページにあったシーンです。
貴族達に取り巻かれるオリゲルドを玉座から見下ろすラグネイド王妃
傍らにゴッドフリード伯・・・
ラ:「陛下のまだ息のあるうちからオリゲルドにとりいろうと」
「きのうまで王妃であるわたしに忠誠を誓っていた者までが・・・」
「オリゲルドに笑顔をむけお追従をいう・・・!」
オリゲルドの視線が王妃を向く たじろぐ王妃
パチン!オリゲルドの扇が閉じられる
エリンワルドの後ろ盾を得たオリゲルドが場の空気を支配している
ことさらに胸をそらして閉じた扇をかざし
「お久しゅうございます 王妃ラグネイドさま ゴッドフリード伯爵」
ラ:「な・・・なんというあの態度・・・・・・・!
「王妃であるわたくしに まるで臣下に対するような態度で・・・!」
「腰をかがめることもしないとは・・・・・・!」
ゴ:「まあ待てラグネイド 人前がある」
ラ:「よ よくこられましたオリゲルド」
「陛下はまだおかげんがよくありません」
「もう少しよくなればお会いになることもできましょうが」
「今はまだ医者から絶対安静といわれているのです」
「心配をかけますが 今しばらくはこの国に滞在なさるよう・・・・・・」
オ:「ありがとうございますラグネイドさま・・・」
「ラストニアはわたくしの国」
「お父さまのご病気が治られるまで 気がねなく滞在させていただきますわ」
ラ:「くっ・・・!」
待ちかねて、嬉しそうに駆け寄るアルディス
「オリゲルドお義姉さま! よくきてくださったわ」
「アルディス・・・!」
ぎゅっとオリゲルドの手を握り
「お義姉さまがきてくださって心強いわ」
「いつまでもアルディスのおそばにいてくださいね」
対するオリゲルドの冷ややかな表情+白目で
「ありがとうアルディス」
「それが本心でそう言ってくださっているのならうれしいのだけれど」
アルディスの手を振りほどき立ち去ります
「お義姉さま・・・」
「アルディス姫・・・」
「ユリジェス・・・」
「お義姉さまは今ご気分がよくないのね きっと」
「無理はないわ お父様のご病気の容態もわからず会うこともできないんですもの」
「きっと心配でたまらないのだわ」
玉座の脇で ゴ:
「案ずることはないラグネイド」
「オリゲルドがいい気でいられるのも いまのうちだけだ」
「もうすぐお前の“不安”をかたづけてやる」 4ページカット
このあたりの改稿もカットされたページ数は少ないもののオリゲルドの印象が悪い部分
であり、アルディスのキャラが立つ場面ですから意図的な改変です。
・・・ていうか、義妹に憎しみを向けるオリゲルドと義姉を慕うアルディスが絡めば必ず
こういう展開になり、観客と読者にとっては憎々しいオリゲルドと可哀想なアルディス
という構図にならざるを得ませんが・・・(-_-;)
ゴ:「いったいなにをぐずぐずしているのだ・・・」
「東の城館にいるオリゲルドをまだ殺ることができんのか・・・!」
ゴッドフリードの手の者:
「それが 護衛が供の者を含めまして84名」「食事の毒味役が5名」
「側近は武術にすぐれた者ばかり20名」「近づくスキもございません」
ゴ:「オリゲルドも用心してきおったわい」
「これでは赤ユリ党をよそおって襲撃することもできんな」
手:「こうなった上は 兵をそろえて攻めるしか・・・」
ゴ:「ばかな・・・! エリンワルドを敵に回す気か!」
「わしらが暗殺したとわかってはならんのだ!」
伝令役の貴族:
「伯爵・・・! たいへんでございます」
「陛下のご容態が・・・!」
ゴ:「なに !?]
マヤの演じたベスのように上半身がベッドからずり落ちた王の姿
医:「さきほど急に苦しまれたかと思うと息をなくされて・・・」
ゴ:「おお・・・」
「お亡くなりになったか こんなに早く・・・!」
ラグネイド王妃:
「おおお・・・ラストニア国王崩御・・・」
ゴ:「よいか!このことはまだ誰にも知らせるでないぞ!」
「皇太后ハルドラさまにもアルディスにも!」
「我らの秘密だ!」
「よし・・・!」 「オリゲルドをここへ呼べ!」
伝:「ゴッドフリード伯・・・!」
ゴ:「オリゲルドに病床の父王を見舞わせるのだ」
「強固な護衛もここではひきさがらざるをえまい」
「オリゲルドが一人になったときに・・・」
伝:「はっ・・・!」
「しっかり気を持てラグネイド 今このことが知れると
オリゲルドがこの国の王位についてしまうのだぞ」
「王の葬儀はオリゲルドの葬儀の後だ」
城内の回廊を粛々と進むオリゲルドと護衛多人数・・・
衛兵A:「これより先は王のご病室でございます」
衛兵B:「供の方はおさがりください」
オリゲ:「いうことをおききなさい」
「父王の病気見舞いなのですよ」
護衛者:「はっ!」
衛兵A:「ではこちらへ」
衛兵A:「オリゲルドさま おこしになりました」
「おまちでございます」
側近: 「中へ」
ゴ:「よくこられましたな オリゲルドどの」
「さ 陛下を見舞うてくだされ」
階段を上り王のベッドへ・・・
優雅に腰をかがめ・・・
オ:「陛下 オリゲルドでございます」
顔を上げて王の顔に目をやる・・・ ピク
白目で動きを止めるオリゲルド 静まり返る場内
オリゲルドの口元に笑みが浮かぶ・・・
息を呑む客席・・・
照明スタッフ:
「お おい 亜弓さんのあの表情・・・抜群だぜ」
「舞台の空気がいっぺんで緊張しちまった・・・・・・!」
「それに あの呼吸・・・! みごとだ」
バラバラと刺客が病室に展開し出口をふさぐ・・・
ここからコミックス21ページにつながります 5ページカット
(ここのコマは一部抜粋してコミックスにも収録されています)
(ああっ・・・ついにここまで・・・(^0^;)・・・迷宮へようこそ・・・)
アルディス投獄から国王の葬儀、アルディスからの手紙を無視するオリゲルド、謀反の
疑いによるアルディス尋問、謀反人の処刑とつづく一連の流れは連載時とコミックス化
の際ではやや順番が違い、また多少の圧縮再構成があるものの大筋では同じです。
連載時にはアルディス投獄、尋問、ビエナとの再会、国王の葬儀、アルディスからの手紙
を無視する、謀反人の処刑という順番になります。
これは花とゆめ10号で投獄、11号でオリゲルド臨席での尋問とそれ以後の流れが一気に
描かれています。
どうでもいい話ですが、オリゲルドのスパイでありアルディスの投獄を実行した貴族には
バルドナ男爵という名があります。
彼とアルディスとの獄中の会話シーンはたっぷり3ページもあります、牢獄での姿が描
かれたエピソードの全体では物語冒頭のオリゲルドの獄中シーンに迫るボリュームが
あったのです、ここでもマヤ対亜弓の演技対決が繰り広げられていました。
以下はコミックス30Pと31Pとの間のシーンです・・・残念なことにカットされました。
「オリゲルドお義姉さまは今度のことをなんと思ってらっしゃるかしら・・・・?」
「悲しくてくやしい思いをなさってるかしら・・・?」
「そうね きっと もし本当だとしたら祖国にうらぎられた思いでしょうから・・・!」
「誰かきたわ」
「バルドナ男爵」
「アルディスさま わたくしが姫君のお世話を申しつかりました」
「男爵・・・!おじいさまとお母様はどうなりました?家の者達は? 話しておくれ」
「ゴッドフリード伯爵は裁判にかけられるため赤の監獄へ」
「ラグネイドさまは青の監獄に」
「そしてゴッドフリード家は領地をはじめすべての財産を没収」
「血筋の者は他国へ流れたとききます」
「まあ・・・!」
「そんなこと・・・!」
「おおお・・・とても信じられない・・・・・」
「お父さまは・・・ 陛下の葬儀はどうなるのです?」
「オリゲルドさまが喪主になり 近く盛大に催されることになっています」
牢獄での生活規範の説明(この部分3コマはコミックスに収録)を終えて戻りかける男爵
「まって・・・!」
「まってちょうだい男爵・・・!」
「お義姉さまに オリゲルドお義姉さまに会わせて!」
「おねがいよ お義姉さまならきっとわかってくださるわ!」
「どうですかな 話してはおきますが」
「いってしまった・・・」
「いままであんなことはなかったわ・・・」
「誰もがみんな笑顔をむけてくれたのに・・・」
「お義姉さまにお会いしておねがいしよう・・・・・!」
「おじいさまのことも お母さまのことも・・・!」
「ああどうか死罪だけはまぬがれますように・・・!」
「生きていてください おじいさま お母さま・・・」
「寒・・・い・・・」
階段に伏せるアルディス・・・ ヒョオオオオ・・・
カップル客:
「なんだかせつなくなるわね・・・この表情・・・」 「ん・・・」
麗:「マヤじゃないよここにいるのは・・・」
「あの子じゃない・・・」
細川:「ん・・・む・・・」
真澄(マヤ・・・!)
ギィーーー
カシャーーーン
音に振り返り 牢獄の入り口を見上げるアルディス
剋目する観客
オリゲルドが武装兵多数と供に登場
「オリゲルドお義姉さま・・・!」 (コミックス40ページにつづく)
白目のオリゲルド
うれしそうなアルディス
「やっぱりきてくださったのね お義姉さま!」
白目横顔のオリゲルド
麗と堀田の会話
牢獄の入り口を見上げるアルディスの絵はコミックスでは39P処刑の日にカラスが
騒がしく鳴く場面の最後の一コマに移植採用されました。
41Pのアルディスは上記最後のアルディスの絵が口の形とセリフを変えて採用され、
最下段の真澄はコミックスでの加筆です。連載時は観客のみのシーンでした。
連載時の原稿ではこのときのオリゲルド登場シーンが微妙に違う絵で3種類あります。
コミックスには10号最終ページのものが採用されました。
オリゲルドは投獄からすぐにやって来てアルディスの胸飾りをむしっています。
つまり連載時の時間経過ではコミックスよりも長期間に渡って無視っていたのです。
実はこの部分はコミックスの構成では時間の流れに矛盾が出ています、順を追っていくと
まず王の死とゴッドフリード派逮捕、アルディスの投獄は同じ日に起こっていますので、
アルディスは普段着(宮廷服)です、寒さに震えながらもオリゲルドの事を案じます。
連載時はバルドナ男爵とオリゲルドは同じ日に牢を訪れていますのでどちらもアルディス
は宮廷服のままです。
尋問後はすぐに貴族との「アルディスはまだ処刑にはしない・・・」の会話になります。
尋問の翌日(以降)にビエナとの再会があり牢番のモズリとグズリが登場します、この時
のアルディスは灰色の囚人服です。(モズリとグズリのシーンは連載時は1ページ半あり、
客席が笑うシーンが2コマとアルディスの笑顔のアップ2コマがカットされました)
すぐに王の葬儀で喪服になり、葬儀の後は灰色の服でオリゲルドへの手紙をしたためます
が握りつぶされます。
(オリゲルドのシカトはここから始まりましたアルディスはしかと見守ったのでしょうか)
手紙を握りつぶした次の場面は神父さまのお説教シーン(ここはカット)、その次が
カラスの騒ぐ処刑の日と続きます。
(カラスのシーンに続いて役人による王妃と伯爵の遺髪引渡し場面が1ページあって
処刑執行場面、アルディス絶叫、昏倒するのを支えるビエナと描かれます)
コミックスではカラスの騒いだ日にオリゲルドが牢を訪れアルディスを尋問の上で王妃と
伯爵の処刑を告げます。
つまり一番最後の処刑のシークエンスに一番初めのオリゲルド訪問シーンを12ページも
挟み込んだわけです。
更に、処刑執行場面の後にも牢獄訪問後の貴族との会話シーンを3ページ挟んでいます
が、ここで階段にうずくまるアルディスは尋問直後の姿です。
(つまり、処刑にショックを受けて気を失ったのではなくオリゲルドに冷たく突き放されて
悲しんでいる場面です)
しかも間の筋立てをつなぐ為に他のシーンのコマを継ぎ張りしたため以下に述べる時系列
の乱れと服装の矛盾が起こったものです。
投獄の際にはアルディスは一人ぼっちで白い服です、ビエナとの再会はオリゲルドの尋問
の後のことでこの時から灰色の服になります、コミックスでは無理やり投獄の直後に再会
シーンのコマを持ってきて更にバルドナとの会話シーンを挟んでいますので1コマごとに
服の色が変わっています。(32P〜なお、このページの真澄や麗は描き足しです)
(上記麗と細川の会話ページがカットされたので書き加えられました)
コミックスを見ていただくとわかるのですが尋問の際(43P〜50P)にビエナはおらず、
アルディス一人だけです。(直前のカラスが舞うシーンと処刑執行シーンの後には同じ
部屋に居るのに・・・アルディスは投獄直後の宮廷服だし・・・)
手紙を握りつぶしたすぐ後に牢を訪問するのもセリフと矛盾していますし、この時期まで
宮廷服の着用を許していたのも合理的ではありません。
51Pの「裁判では有罪・・・」以下4コマはつなぎの為の加筆です、連載時は1ページ分
描かれた遺髪引渡しの場面であり、これらの発言は全てアルディスに対する役人の発した
セリフで情景は役人一名と武装兵が来てこれを語り他には客席の描写などでした。
神父さまの説教シーンは連載時の原稿ではコミックス38Pの上段3コマ(シカト宣言)
に続く部分にあったものですがカットされました。
(アルディスとビエナの会話はつなぎのための描き足しです)
「いかなる苦しみも神の与えたもうた試練であるのです アルディス姫」「世を呪い人を
憎んではいけません」「その試練にうちかつ姿を神はじっと見守っておられるのです」
( ^-^)/(‥、) 「はい神父さま」 「神の与えたもうた試練・・・」 ヽ(^-^ヽ)
なお、このお説教シーンはグリエル暗殺後のお説教とは別物です。
連載時はお説教に続いてすぐに処刑の朝の場面になります
「お食事でございますよアルディスさま」
「またスープと芋だけですがあったこうございます」
(このコマはテーブルの上のスープと芋の皿の絵がカラスの鳴き声に変わっています)
「なんでしょう きょうはカラスがあのように騒いで・・・」
「町の上のほうで群れになっておりますわ」 (ここは同じ)
役人一人と衛兵二人が来ました (カット)
「至急アルディス姫さまにおめどおりを」
「これを」
「ラグネイド王妃さまとゴッドフリード伯爵の遺髪です」
「遺髪!」 (青筋アルディスの横顔アップと役人) R
「裁判では有罪」
「今朝お二人とも処刑されました」
「首を切りおとされた死体は見せしめのため町の広場へ・・・」 (客席描写) R
「処刑・・・!」
「お母様におじいさまが・・・・・・!」 R
*Rのコマの絵の部分は部分はカットして描き替え、セリフは他のコマに転用
ビエナとの再会から牢番との会話の場面も連載時の流れで御紹介しましょう。
絵のつながりはコミックス57Pの次の場面になります。
(連載時の流れは上記記述を参照してください)
牢番の男二人に伴われてビエナが牢にやってきます。 カット
「ビエナ!」
「姫さま!」
ひっしと抱き合い 収録
「よかったもう会えないかと思ったわ」
「姫さまもよくご無事で」
「王宮でなに不自由なくお暮らしになっていた姫さまがこんな所で」
「あまりにお可哀想ですわ・・・!」
「ビエナごめんなさいねわたしのためにこんな所で・・・」
「とんでもない!わたくしは姫さまのいく所でしたらどこへでも・・・!」
窓辺から小鳥の鳴き声が聞こえます ピーーロロロ・・・ カット
「ビエナ」「ほら小鳥がこんな所に!」
「それにごらんなさい」
「もう冬かしらというのにこの陽射し・・・」
「ねえどんなときでも希望は捨てないでいましょうビエナ!」 収録
「どんなに冬が長くてもいつかはきっと春がやってくるわ」
「姫さま・・・!」
「看守!」「そなた達の名はなんというのですか?」 収録
「モズリに」「グズリであります」
「おかしな名前・・・」 カット
「わたしは王女アルディスです」
客席からクスクス笑い声が上がります
にっこり微笑んで カット
「ここにいる間は世話をかけますがよろしく頼みます」 セリフのみ収録
「は はい・・・!」 収録
「お 王女さまがおれ達の名前をきいてくれた・・・!」
「よろしく頼むってあいさつしてくれたんだ・・・」
満面に笑みをたたえたアルディスのアップ(背景は客席) カット
「そうですとも」
「いつかきっと春がくるわ」
ここまで3ページです、コミックス34P最下段は描き足しです。
この後は王の葬儀、手紙、処刑という流れです。
以上の展開は残念ながら、短いエピソードの順番がコマ単位であちこちになっています
のでドラマ風にセリフを拾い上げるのを断念しました・・・(T_T)・・・
セリフは大半がそのままコミックスに収録されています(ただ順番が・・・(T儺)
いかがでしょうか?理解できました?これらは全て花とゆめ11号に掲載の25ページ分の
原稿を並べ替えた為に起こった矛盾なのです。
演出を変えた訳ですがこの短い展開を無理に並べ替える必要があったかどうか疑問です。
美内先生は25巻以降はこうしたエピソードの差し替えを頻繁に行っていますが、こんな
にはっきりとした展開の破綻はちょっと珍しいかも・・・
以前紹介した稽古中のエピソードは綺麗に改稿していらっしゃったのに・・・
(稽古中も服装が日ごとに変わってはいたが、改稿の際に描き直していた)
なお連載時原稿にも間違いがあってコミックス54Pのうずくまるアルディスの場面になんと
ユリジェスと思しき人物がビエナの反対側でその上体を支える絵があります。
(コミックスではユリジェスを削除してアルディスのポーズが描き直されています)
これら一連の場面はカットされたページ数そのものは少ないのですが、アルディスの
可哀想でもありけなげでもある“見せ場”となる部分なので、やはり亜弓有利の展開
に持って行くための改稿でしょう。
(辿り着きましたね・・・(^0^;)・・・ここが最後のパートです)
100日の喪が明けた新女王の戴冠式では印象的な部分に大幅にカットがあります。
大広間 中央の祭壇に教皇と従者二名 各国の賓客や貴族、貴婦人が整然と並び、
大鐘楼の鐘の音が響いています ゴォ〜ン ゴォ〜ン ゴォ〜ンン・・・
ユリジェス:
「亡き国王陛下の百か日間の喪も明け ラストニアは新たな王をむかえることになった」
「亡き国王の第一王女 エリンワルド国のアシオ王子に嫁ぎ妃殿下となったオリゲルド
王女・・・」 「そう アルディス姫の義姉でもある あのオリゲルドさまが今日女王と
なられるのだ」 「戴冠式のとり行われるこの寺院には各国の王族や貴族が集まった」
戴冠式には各国の王侯貴族に混じってエリンワルド王とアシオ王子や大臣も参列
「おめでとうございます陛下」
「長い間の敵国ラストニアもこれで陛下の手に入ったようなもの」
「しっ!大臣 うかつなことをいうでない」
「当分はアシオ王子をオリゲルドと共にこの国に住まわせ様子をみるつもりだ」
「父上・・・!」
「のう王子 いずれここもおまえの国になるのだ」
「だがいいな 当分の間はかってなことをするな」
「この国のことはとりあえずオリゲルドを中心にこの国の者たちにまかせるのだ」
「しばらくはおとなしくしていろ!」
「エリンワルドはラストニアと親子も同然! そう思わせておくのだ」
「長年の宿敵ラストニア」
「フフフフ・・・すでに我が手にはいったも同然・・・!」
「やれやれ おれは国政なんて興味がないというのに」
「退屈そうな国だ こんな所でおとなしく暮らさなきゃならんとは・・・」
貴族の中にざわめきが起こり 観客の視線が一点に集まる 舞台の一角にシルエットが
浮かぶ スポットが当たる 真澄さまが絶句 観客が息を呑む バラけた髪、灰色の服、
沈んだ表情、粗末な身なり その両手には固く縛った縄が!その先は屈強な衛兵の
手に握られている・・・
ユ:「アルディス姫・・・!」
客席騒然!
貴族たちからささやきが洩れる
「なんてことでしょう!」
「あれがアルディス姫ですの !? 信じられませんわ」
「ごらんあそばせ あのみじめな灰色の服を・・・!」
「小間使いでもあんなものは着ませんわ」
「手をくくられまるで囚人のようではないか・・・!」
「これがあのラストニアの花とうたわれた王女だとは・・!」
「ご存知でしょう?亡くなられた国王の后とその父ゴッドフリード伯が
アルディス姫を王位につけようとして国王の死をふせ
その間にオリゲルドさまを殺害しようとした事件を」
「アルディス姫も その仲間に加わっていたいたという疑いがかかっているのです」
「当のアルディス姫がこの陰謀を知らぬわけはあるまいとね」
「いわば姫はきょう女王となられるオリゲルドさまに謀反をおこそうとした罪人」
「だがただ一人の血のつながった義妹姫というので お情けできょう牢を出され
戴冠式に列席できることになったのだ」
「だがあれは臣下の席・・・」
「謀反人の疑いのある姫ではそれもいたしかたないことですね」
ユ:「おおお・・・アルディス姫・・・!」
「あれが本当に姫か・・・!」
「頬からバラ色の笑みが失せ
黄金の糸を束ねたような髪は結われもせず色あせて見える」
「身を飾る宝石もなく囚人のような灰色の衣服・・・!」
貴族A:「惨めなものだな あの天使のように美しく輝いていた姫が
灰かぶりの召使いのような姿とは・・・」
貴婦人:「お気の毒に・・・」
貴族B:「これからはオリゲルドさまの時代だな」
「アルディス姫・・・!」 駆け寄るユリジェス
ア:「ユリジェス」
衛兵が立ちはだかり槍でさえぎる
衛兵A:「近づくけば仲間とみなしますぞ!」
衛兵B:「姫はまだ謀反人の容疑がとけていないのだ!」
「かまわん!そこをどけ!」
「あまりに無礼ではないか!」
「かりにも一国の姫君をこのような姿で列席させるとは
まるでさらし者のようではないか!」
父ランスベルイ伯爵割って入る
「やめんか!ばかもの!」
「父上・・・!」
書いてて涙が出てきた・・・今書き手の心はユリジェスと同化している!・・・(TAT)・・・
場内にファンファーレが響く 「オリゲルドさまのおなりー」
オリゲルド入場
ユリジェスと衛兵が睨み合う脇を通り颯爽と絨毯の中央を進み教皇の前へ
貴婦人からため息がもれる
従者二人を伴い聖書を手にする教皇 「汝オリゲルド・デジル・レインフォルボア
ラストニアの王となりて 国のため民のため正しく政り事を行うことを誓うか?」
「はい」 教皇より王冠と爵杖、宝具が授けられる
従者が捧げるマントを羽織って誇らしく振り返ると
「ラストニア国 女王陛下ばんざーい!」 の声が沸き起こる
「女王陛下ばんざーい!」
評論家二名
いや みごとですな」
「姫川亜弓の堂々たる演技!」
「立場の逆転したアルディスとオリゲルドの演技を
このあと北島マヤと姫川亜弓がどうみせてくれるか楽しみですな!」
歓声の中、片隅で見詰めるアルディス
「オリゲルドお義姉さま・・・」
「とうとうこの国の女王陛下におなりになった・・・」
「亡き お父さまのかわりに・・・」
「どうしたのビエナ なぜ泣くの?」
「だって姫さまくやしいではありませんか!本当ならばああして
祝福されていたのは姫さまかもしれないというのに」
「今まで親切にしてやった貴族達までが姫さまを無視して・・・!」
「およしなさいビエナそんなことをいってはいけないわ」
「おじいさまやお母様がお義姉さまにしたことを思えば
わたしがここにこうしているのもしかたのないことだわ」
「お義姉さまは かつてわたしのために命を投げだして敵国へいかれたお方よ」
「そのお義姉さまを殺そうとしたなんて・・・・・・」
「お義姉さまはきっと わたくしに裏切られたとお思いになったでしょうね」
「とても悲しくつらい思いをなさったにちがいないわ・・・」
「アルディスさま・・・」
スポットライトがオリゲルドへ・・・
「ついに手に入れたわ・・・長い間の念願だった王座・・・!」
「お母様 ごらんになっていて?」
「あなたを苦しみの淵に沈めた者達は皆 わたしが葬ってさしあげましてよ」
「ああ 夢のようだわ」
「あの暗く冷たい牢からぬけ出て今はこの国の最高の地位にいる!」
「最高の富と権力がわたしの手にある・・・!」
「お母さま あなたはおっしゃったわ」
「人は野望をとげるためには どんな人間を犠牲にするのもいとわないと・・・」
「誰も信じない誰も愛さない」
「そしてわたしはこの国を得たのよ」
「ラストニア、わたしの国・・・なんてすてきな響き・・・」
「どれほどこの言葉をつぶやく日を待っていたことか・・・」
視線をアルディスに転じ
「どう? アルディス」
「臣下の席で罪人のように手をしばられ 粗末ななりで人前に立つ苦痛はどう?」
「ラストニア国第二王女 王位継承第二位」
「けれどこれでもうあなたがこの国でなんの力もないことが みなにもよくわかるでしょう」
「集まった他国の王族や貴族達のあなたを見るあの冷ややかな視線・・・」
「アルディス これでもう誰もあなたの味方になる者はいないわ・・・」
つぶやきながら傍らの侍女の捧げる花を一輪手に取り・・・
歩き出すオリゲルド 見詰める観客と貴族達・・・
アルディスの方へ歩を進めます。
緊張の走る場内、冷たい表情でアルディスの前へ
「あ・・・!」 思わず微笑むアルディス
その表情に 亜弓(この子・・・!)
息を飲む観客席
アルディスは腰をかがめて
「本日はまことにおめでとうございます オリゲルド女王陛下」
ざわめく場内
満面に笑みをたたえ・・・
「今日よりこの国のよき女王陛下となられ お義姉さまの世が末永く栄えますように」
(マヤ、なんて表情なの・・・おだやかであたたかな・・・はにかんだ天使の表情・・・!)
(演技とも思えない・・・! 舞台の上でこんな表情ができるなんて・・・!)
いぶかしみつつ・・・
「アルディス あなたのその言葉が“真実なら”うれしく思います」
意外な言葉に少し気落ちして・・・
「はい お義姉さま」
「アルディス ではあなたにも幸運を・・・」
手にした花にくちづけてからアルディスの前に差し出すオリゲルド
「あ」 急ぎ両手で受けようとするアルディス
しかし衛兵に縄で繋がれた手は途中で止まる
それに構わず花を手放すオリゲルド
ざわつく場内
白目青筋のオリゲルド 「クッ・・・」 口元に笑みが浮かぶ
驚くアルディス
ゆっくりと落ちる花
ふたりの間の床に落ちた 凍りつく貴族達
戸惑うアルディス
「姫さま・・・」 拾おうとするビエナを長槍の柄でさえぎる衛兵
震えながら跪き、くくられた両手を伸ばし花を拾うアルディス
「マヤ・・・!」 沈痛な表情で麗が呟く
拾い上げた花を自らの額に掲げて目を閉じ腰をかがめ
「ありがとうございます 女王陛下」
それを無言で見るオリゲルド 震えるアルディス
貴族の声が飛ぶ
「アルディス姫がまるで家臣のようにオリゲルド様にひざまづかれたぞ」
無言でその場から立ち去るオリゲルド
歓呼の声が上がる
「女王陛下ばんざい」 「オリゲルドさまばんざい」 「ラストニア国ばんざい」
(・・・いぢめじゃん・・・((+_+))・・・)
「姫さま・・・!」 「ビエナ」
「くやしゅうございます・・・」
「姫さまに召使いのようにひざまづいて花を拾わせるなんて・・・!」
「お義姉さまの手がすべったのよ 誰にでもあることだわ」 「姫さま!」
「それよりビエナ みてよ」
「美しい花だわ なんて鮮やかな色」
「花をみるなんてもうついぞなかったことですものね」 「姫さま・・・」
「不思議なものね 以前はそれほどとも思わなかったのに・・・」
「今は一本のなんでもない花がこんなにも美しく思える」
衛兵A:「さ!式は終わった 宴は必要ありません」
衛兵B:「牢獄へもどっていただきましょう」
「アルディス姫!」
「ユリジェス・・・」
「アルディス姫」
「いつかきっと・・・きっとあなたを・・・!」
「フッ・・」 アルディスから笑みが・・・
「いつか・・・」 「また・・・」
アルディスの背を槍の柄で押す衛兵 アルディス退場
この場面のユリジェスは悲痛な表情ですが、アルディスはむしろ幸せそうにしています。
なお、この後はストーリーのカットはありません。
(コミックス27巻62ページに続く)
HOME;
(・・・これから読みはじめたらえらい事になりますよ・・・(^0^;)・・・)
いかがでしょうかこれが連載時原稿の戴冠式のエピソードよりカットされた24ページ分です。
コマ割りが判るように工夫していますので場面展開の味わいはお分かりいただけるかと
思います。 (なお、この時のビエナは普通の服装で随行していました)
セリフに空白の行がある場合はそこがコマ割りになっています。
(カットの多い部分や情景描写のみのコマはこの限りではありません)
コミックス(27巻60ページ前後に収録)でのこの場面と比べていただくとセリフを一コマ
に凝縮して、絵は大幅カット及び再構成している事がよく解ると思います。
手をくくられたアルディスの姿がありますが小さすぎてはっきりとは見えませんね、服は
少し加筆修正して惨めさをかなり薄めています。
このように戦争状態からのアルディスの和平交渉、オリゲルドの意を受けたグリエル大臣
の宮廷工作、エリンワルドの軍事介入、ハーランド征服、王子と王の暗殺、派閥の暗躍、
ゴッドフリード派粛清、アルディス投獄、王の葬儀、ウーロフ王の思惑、新女王の戴冠式
へと繋がる政治的な背景描写の深みをこつこつ積み重ねていたのにそれらの伏線をも
犠牲にしてまで、オリゲルドの陰謀に翻弄されるアルディスの姿を大幅に改稿削除した
理由は何だったのでしょうか?
特にオリゲルドがやさしい義姉を装ってアルディスに送った二度目の手紙とアルディスの
反応、そして客席の描写は痕跡すら残さずカットされました。
(おかげで終盤のアルディスのセリフに軽い破綻が出ていますね
「・・・何度も手紙で励ましてくださった・・・」という部分)
戴冠式場面での凄まじいまでのアルディス王女の権威の失墜振りは、それを国の内外に
示す為のオリゲルドの政治的意図とアルディスに対する憎しみの両方を象徴的に描いた
シーンですが、それも骨抜きの上でわずか数ページに圧縮されました。
(アシオ王子はこの時にアルディスの姿をみていた為、彼の後のセリフに「ボロを
まとっていたがたいそう美しい王女だった・・・」というのがあるわけです)
コミックスの初版発行日はいづれも1983年で25巻 4月25日 26巻 6月23日 27巻
11月24日 ですのでスケジュールが特別にきつかった訳でもなさそうです。
さあ!いよいよ今日のその時がやって参りました!!
(まだ誰かいるかな!?・・・v(^0^;)v ・・・おーい・・・)
私が思うに、連載では長期に渡るストーリーなので、だんだん薄まる印象がコミックス
では短時間に読んでしまうため強すぎるからではないかと考えています。
補足しますと、舞台の最後に観客の喝采を一身に集める筈の悲劇の女王オリゲルドが、
この舞台中盤で陰謀の権化となり特に戴冠式のエピソードではあまりにも強烈な悪印象
を与える点と、幸せな光の王女アルディスの方に、悲劇のヒロイン的印象がより強く残る
点がその最大の理由だと思います。
舞台のラストシーンに合わせて途中を改稿した結果、展開に無理が生じて細かい部分で
ほころびが目立つ格好になったものと思うのです。
その根拠の一つは連載時の劇終盤からフィナーレに至る4話分は細かい部分も含めて
全く改稿がないのです。
誤解のないように願いたいのですが、多少のほころびがあろうと私はこの作品は傑作の
中の傑作だと思っています。
ただ、マヤの活躍シーンがカットされたのを納得できるほどにコミックスの完成度が
上がっているとは思えないので残念に思うのです。
スタッフの言う「こりゃあ光が影にくわれている・・・」に答えて
月影先生の言う「どんなに影が濃くても光がなければ影はできないのよ・・・」
ではなく影をヒロインにする為に光にヴェールをかぶせたような印象がぬぐえない・・・
・・・光が強ければより影が濃くなる・・・・・・
アルディスが輝けば輝くほどオリゲルドはより印象を悪くしたのだろうか・・・
なおコミックスでは特にアップのオリゲルドの顔に、頬の影や目の下のクマを加筆して、
より痩せた感じでいっそうコワくなっています。
(連載時原稿のオリゲルドはもーーーっと美人でした(^-^)・・・
・・・コミックスの表紙カバーの感じですね)
最後にふたりの王女のインスピレーションの原典と思しき歴史上の人物を紹介いたします。
http://www.actv.ne.jp/~yappi/tanosii-sekaisi/06_kindai/06-12_erizabeth.html
ここまで読んでくださった方に深く感謝いたします。
ここにいらっしゃるすべてのみなさまにアルディスはキスして差し上げたいきもちよ・・・
・・・(*^.^*)
|
<= ご感想、ご意見、ご苦情、コメント等はこちらへどうぞ !! (^_-)-☆ |
||
---|---|---|---|
<= ゲストブックです。 ご来訪の記念に足跡など残してください !! |
|||
<= ガラスの改稿の裏話です コメントなどのカキコもどうぞ !! (^_-)-☆ 次のページ作成の進行状況や次回予告などを書くこともあります。 |
|
|
”かぜ”の作成したサイト内横断リンク集 |
作成日 |
最終更新日と更新内容 |
---|---|---|---|
改稿 ・ 未刊行解説以外の ペ │ ジ も い ろいろ あ る よ !
見 て ね !
(^^) |
第11章 紫の影 4 狼少女ジェーン 3 通し稽古編 1 へ 第11章 紫の影 5 狼少女ジェーン 4 通し稽古編 2 へ 第11章 紫の影 7 狼少女ジェーン 6 ミルキーウエイ編へ 第11章 紫の影 8 狼少女ジェーン 7 速水真澄の陰謀編へ 第11章 紫の影 9 狼少女ジェーン 8 姫川亜弓の活躍編へ 第11章 紫の影 10 狼少女ジェーン 9 速水英介の思惑編へ 第11章 紫の影 11 狼少女ジェーン 10 野生の狼少女編へ 第11章 紫の影 12 狼少女ジェーン 11 『イサドラ!』の楽屋編へ 第11章 紫の影 13 狼少女ジェーン 12 ロビーの波乱前編へ 第11章 紫の影 14 狼少女ジェーン 13 ロビーの波乱後編へ 第11章 紫の影 15 狼少女ジェーン 14 紫のバラと万年筆編へ 第11章 紫の影 16 狼少女ジェーン 15 開演前日の風雲編へ 第11章 紫の影 17 狼少女ジェーン 16 嵐の開演初日編 1へ 第11章 紫の影 18 狼少女ジェーン 17 嵐の開演初日編 2へ 第11章 紫の影 19 狼少女ジェーン 18 嵐の開演初日編 3へ 第11章 紫の影 20 狼少女ジェーン 19 嵐の開演初日編 4へ 第11章 紫の影 謎の番外編 ─ガラスの仮面通信─ 1〜6へ 第11章 紫の影 21 狼少女ジェーン 20 上演2、3日目編 へ かぜのキャラクター紹介のページへ キャラのイラスト募集中 !! |
2006/01/02 up 2006/01/12 up 2006/01/14 up 2006/01/22 up 2006/01/28 up 2006/02/04 up 2006/02/12 up 2006/03/01 up 2006/03/07 up 2006/03/11 up 2006/03/25 up 2006/03/31 up 2006/04/01 up 2006/04/12 up 2006/04/17 up 2006/04/25 up 2006/05/08 up 2006/05/21 up 2006/06/02 up 2006/06/10 up 2006/07/15 up 2006/07/24 up 2006/07/27 up 2006/08/25 up 2006/01/17 up 2006/02/02 up 2006/04/29 up 2009/07/10 up 2009/07/10 up 2006/03/26 up 2006/04/02 up 2006/05/13 up 2012/01/10 up 2012/02/21 up |
12/02/22 コンテンツ全体の修正 06/04/13 背景とレイアウトの変更
06/04/29 「 キエカナ」 へのリンク追加 06/05/08 屋台場面の注釈を追記 06/04/12 背景とレイアウトの変更 06/04/06 画像のレイアウト変更 06/04/12 記述の追加とレイアウトの修正 06/05/01 「 キエカナ」 へのリンク追加 06/04/12 レイアウトの変更 06/04/12 新事実の追記二件と全体修正 06/04/17 内部リンクの追加 06/04/14 注釈の追記と情景描写の修正 06/04/17 内部リンクの追加 06/05/01 コンテンツ名変更 06/06/03 若干の注釈追記と微修正 06/06/16 若干の解説・注釈の追記と修正 06/06/16 更新 記述の追記と修正 06/06/16 解説・注釈の追記と記述の修正 06/06/16 解説・注釈の追記と記述の修正
06/08/28 追記と修正 12/01/13 更新 記事の追記 06/06/07 カラーも含む画像2枚 up
新コンテンツ作成ごとに随時更新中 必要に応じて随時加筆 2012/02/21 新規サイトを仲間に追加 (^^) ついに作家デビュー !! 作家デビュー2作目 !! 最新のコンテンツ |